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2008年 06月 29日
旅という字が好きなのですが、その感覚を上手く書けたような気がするので、どりんかーず室内合奏団の2007年演奏会の曲紹介文をここに再掲載させていただきます。

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W. A. モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-1791)作曲
ディヴェルティメント ヘ長調 KV.138

 昨年(2006年)のワールドカップドイツ大会を最後に引退した中田英寿は、引退の決意を公表するにあたってホームページにこう綴った。“人生とは旅であり、旅とは人生である”――

――外国の音楽をやるためには、その音楽の生まれた土、そこに住んでいる人間、をじかに知りたい。とにかくぼくはそう思った。もちろん青二才のぼくに大金のあるはずはないが、多少の金さえ持っていれば、あとは日本のスクーターでも宣伝しながら行けば、ぼく一人ぐらいの資金は、捻出できるのではないかと思うようになった。それがぼくをしてスクーター旅行を計画させた動機だったのだ。――これは、貨物船にスクーターを乗せてもらってヨーロッパへ旅立った24歳のときの小澤征爾。

――まだ仕事は上手くいかない。夕方までに上手くいかなかったら明日の帰国便を延ばさなきゃならない。夕方まで悪戦苦闘してみたがやはり今日も上手くいかなかった。日本人は狙われるから街中でタクシーを拾ってはいけないよと言われていたのだが、タクシーを拾って航空会社まで行ってつたない英語で帰国便の変更を頼む。そしてまたタクシーで仕事場まで戻る途中、運転手がバックミラー越しに話しかけてくる。「悲しそうな顔をしてどうしたんだ?スマイルだよ、なぁ、スマイル。」職場に戻って、帰ろうとしている事務のオバチャンとすれ違う。「あら、悲しい顔をしちゃだめよ、スマイル。明日はきっといいことがあるわ」励まされた。なんだかよくわかんないけど、感動した。――これは、出張でメキシコにいた28歳のときの僕。

――ぼくは断言しますが(少なくとも芸術や学問に専念している人たちで)旅をしない人たちは、まったく哀れな存在にすぎません。平凡な人は旅をしようとしまいと平凡でしかありませんが、優れた才能の人は(中略)もし絶えず同じ場所にいれば退化してしまいます。――これは、22歳のモーツァルトがパリから父にあてて書いた手紙。

 モーツァルトがその人生の約1/3を旅に費やしたことは有名な話である。6歳のときの父とのミュンヘンへの旅に始まってそれから17歳までの約10年は旅の連続で、この旅の経験は少年モーツァルトにとって特別なインプットとなった。10代のうちにモーツァルトは3度イタリアを訪れているが、1772年16歳のモーツァルトは2度目のイタリアへの旅から戻った時期にKV.136, 137, 138の3曲のディヴェルティメントを作曲した。この3曲をディヴェルティメントと分類したのはモーツァルト本人ではなく後世の研究家であるが、曲そのものはディヴェルティメントというよりはむしろイタリア式交響曲”シンフォニア”に近い。ザルツブルグ・シンフォニーなんて呼ばれることもあるこの3曲は、天才少年モーツァルトのみずみずしい感性に満ちている。

――僕の大学時代の後輩に、有名なアナウンサーを母に持つ女の子がいた。僕のとある友人は、娘を大学まで迎えに来たそのママさんアナウンサーを発見しすかさずサインをもらったが、その色紙にはサインとともにこう綴られていた。”人はいつも 旅の中”。勢いでサインをお願いしてしまったのだが、そのサインにそのとき彼は感動してしまった。――これは、僕の友人スッキー。

 人はいつも 旅の中。

第一楽章Allegro
第二楽章Andante
第三楽章Presto
(文責 HP管理人N)


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special thanks to Drinkers Chamber Orchestra
by manakano1972 | 2008-06-29 12:16 | 日々の雑感
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